こんにちわ、ぜつえん(@zetuenonly)です!
寝袋を選ぶときに参考にするのが使用可能温度。
この温度はヨーロッパ規格のEN13537と各社独自基準の2パターンで表記され、それぞれメリットデメリットがあります。
今回は寝袋のEN13537(ヨーロピアンノーム)のことを中心に寝袋の保温力に対する考え方を書いていきます。
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EN13537とは
EN13537はヨーロッパを中心に2005年に制定された寝袋の温度規格です。
CEN(欧州標準化委員会)が定める、EN(European Norm:ヨーロピアンノーム、European Standards:ヨーロピアンスタンダード)規格の13537番が寝袋の温度を表すものという意味です。ヨーロッパで販売される寝袋はEN13537規格で検査し、表記することが義務付けられています。
同じ基準で比較することができるためメーカー間の寝袋を比較できるため多くの寝袋メーカーで採用されている規格です。
ヨーロッパにとどまらず、日本の寝袋にも使われている知名度が高い統一規格で信頼度も高いと言えます。日本では「ヨーロピアンノーム」だけでEN13537の寝袋の保温力と伝わる程度には広く知れわたっています。
寝袋を選ぶ時に最も参考にしやすい数値と言えるでしょう。
ISO23537
EN13537は2016年にISO(国際標準化機構)規格に置き換えられ、ISO23537と表記するようになっています。
正確にはEN ISO23537(国際基準のヨーロピアンノーム)です。今までCENが定める基準だったのが、CENとISOが共同で定める基準になったということです。
ISO23537でも表記に変わりはなく、各社移行しきれずEN13537と混雑しているのが現状です。
ファイントラック | 「ヨーロピアンノーム(EN ISO 23537-1:2016)」 |
モンベル | 「ISO23537、EN13537(ヨーロッパ規格)」 |
ナンガ | 「EUROPEAN NORM(EN13537)」 |
テンマクデザイン | 「温度検査はISO23537規格試験」 |
全て同じ意味ですが、片方だけだったり両方だったりと表記はバラバラ。
ぼくもEN13537とヨーロピアンノームという呼称が抜けず、ISO23537に移行できていません。
同じなのでどちらでも問題はないんですけどね。
温度表記
EN13537では4つの温度帯で表記をしてくれます。一般的には上限温度以外の3つで表記されます。
標準的な男性:25歳、身長173cm、体重73kg
標準的な女性:25歳、身長160cm、体重60kgで想定した規格です。
上限温度(Upper Limit:アッパーリミット)
あまり表記されることがない温度帯。
標準的な男性が腕を寝袋の外に出した状態で寝て、暑さを感じずに寝れる温度のこと。
快適温度(Comfort:コンフォート)
標準的な女性が寒さを感じることなく寝ることができる温度。
寝袋を使い慣れていないなら男性でもコンフォートを参考にするのがいいです。
慣れていない女性ならコンフォートよりも余裕を持たせた寝袋がオススメです。
限界温度(Limit:リミット)
標準的な男性が丸まった状態で8時間眠ることができる温度。
慣れていない人が上下ダウンを着込めば寝れるか、寒さを感じる程度です。
慣れている人なら上下薄手ダウンやフリースでも寝れるでしょう。
秋春や初冬には軽量化のために3シーズンシュラフ+上下ダウンを着込んで、リミットかリミットより低いくらいでもがんばるかなというライン。
極限温度(Extreme:エクストリーム)
標準的な女性が膝を抱えるくらい丸まった状態で低体温症のリスクなしで6時間までなら耐えられる温度。
基本的に一切参考にならない温度帯で、6時間寝れるではなく、耐えられるって書いてる辺りがエクストリーム。夏用で-10度以下、秋春用-20度、冬用なら-30度位になります。慣れてる人でもこの温度域で使う人はまずいないです。
そのためにコンフォートとリミットしか記載していないメーカーも多いです。
検査方法
検査は第三者機関により公平に行われます。
検査室では温度センサーを体の5カ所に設置したマネキンに上下長袖と足首までのアンダーウェアを着せてから、寝袋に入れて、マットの上に寝かせて測定します。
そしてマネキンの放熱度合いと室内の温度から総合的に寝袋の性能を算出していくという検査方法です。
寝袋の綿量だけではなく、生地の種類、ジッパーも温度に大きく関係してきます。
EN13537の欠点
公平に行われるEN13537の表記と検査ですが、いくつか問題点も指摘されています。
日本人向けではない
ヨーロッパの人を目安にした規格のため、体格に優れない日本人はより寒さを感じやすい点です。よくテレビで海外の人がTシャツで富士山を登る映像がありますが、筋肉量が関係して人種で体感気温が大きく異なります。
そのため昔から「寝袋の温度+5度で見るんだよ」というのはそのことからでしょう。+5度はアバウトですが数値を数値のまま見るのではなく、日本人感覚に当てはめて考えるのが正しいのでしょう。
ただ個人差は大きく日本人の中でも5度以上の差があるため目安にすぎません。
検査方法の欠点
まず通常の寝袋での使用を想定されているため、ULの流行りで増えてきているキルト型など背面に生地、綿の無い寝袋の保温力を測ることができないこと。
そして動かないマネキンを使った検査方法の弊害ですが、静止したままの測定のために寝がえりや寝る姿勢を考慮されていない欠点が指摘されることがあります。
人間が寝るときは、一晩で姿勢を何度も変えていきます。その際に熱が逃げやすさ、逃げにくさを考慮されていないのです。
さらに動かない前提の検査ためにきつめなサイズの寝袋のほうが検査結果が良くなると言われています。
きつめの寝袋で検査結果は良くても、実際に寝る場合は窮屈で寝にくく暖かくても快適ではなかったり、寝返りを打ちにくかったりと不便さが出てくるというのも欠点です。
現状では統一されていて、メーカー間で比較しやすくベストな目安だとは思いますが、EN13537が全てではないという認識は忘れずにいたいです。
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独自基準
寝袋の使用可能温度をEN13537で表示していないメーカーの寝袋は各社独自の規格を採用しています。そのためメーカー間で同基準で比較できないデメリットがあります。
格安寝袋
アマゾンの寝袋あるあるですが「-30度対応」「最低使用温度-18度」「快適使用温度8度 最低使用温度-5度」のようにさも極寒でも安心して使えるような表記をしている寝袋が非常に多いです。
この表記はほぼ各社が独自の検査方法で測定したもので、基本的に一切参考にならない数値です。
ただ初めての寝袋を安く済ませたいと思う初心者は安くて・〇度対応という言葉に惑わされてしまうのも事実です。マーケティング的には良いことなのでしょう。
しかし参考にはならないため、実際に購入する場合は形状、ジッパー、重量、中綿素材、レビューなどから性能を推測していくのが必要です。それでも寝袋は値段が性能に直結すること、安かろう悪かろうであることは理解しておくべきです。
イスカの寝袋
国内三大寝袋メーカーのひとつであるISUKA(イスカ)はEN13537を採用せず、独自規格の温度表記をしています。「〇度」と1つだけの温度で最低使用温度を表しています。
イスカの検査は熱帯雨林やゲリラ豪雨など地球上のあらゆる気象環境を再現することができる「東レ人工気象室テクノラマ」の中で-20度積雪25cmを想定した状況で行われ、テスターにつけた温度センサーとサーマルイメージャーによる放熱状況から2日間にかけて測定計算されます。
厳しい検査をしているから良いということではなく、信頼性は間違いないということです。結局他社とは比較できないため独立した表記で、イスカの寝袋のみを見ればわかりやすく信用性が高いとは言えます。
ただ一部フラグシップモデルでは独自基準での温度表記と並行してEN13537での温度表記もされています。
独自 | EN13537 | |||
製品 | イスカ 表記 |
快適 Confort |
限界 Limit |
極限 Extreme |
Air 180X | 8度 | 14.2度 | 10.9度 | 0.2度 |
Air 280X | 2度 | 3.6度 | -1.6度 | -17.7度 |
Air 450X | -6度 | -1.2度 | -7.3度 | -25.2度 |
800FPダウンを使った夏用(Air180X)、3シーズン(Air280X)、秋春初冬(Air450X)の3つ。
Air180はEN13537のリミットよりも低い温度表記になっています。
Air280とAir450はEN13537のリミットよりもやや高い温度となっています。
ぼくも使っている定番Air280がかなり甘い表記なのはわかります。
イスカは独自だけど、ほかのモデルを買う場合でも信用に足る表記だなという感想でした。
2021年にモデルチェンジしてエアプラスになりましたがスペック的にはほぼ同じです。
コスパに優れるタケモのスリーピングバッグも、イスカに30年務めた元社員が立ち上げたメーカーで同様基準程度の温度帯だと思われます。
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寝袋の保温力を左右する三大要素
良い寝袋の条件であり保温力を決めるのは主に「中綿・構造・生地」の3つの要素です。その3つが重なることで軽く、暖かい寝袋を作ることができます。
中綿
最重要なのは中綿素材です。大きくダウンと化学繊維(ポリエステル素材)の2種類があります。
これはさらに細分化していくことができます。
ダウンの質を表すFP(フィルパワー)が高いほどに高品質なダウンであり、重量に対する保温力が上がっていきます。撥水ダウンにするとダウンが湿気を吸いにくくなり一晩中暖かさを保ちやすくなります。
また同FPダウンでも洗浄度合いとフェザーとダウンの混合率(90/10%等)でも変わってきます。
NANGAは国内洗浄にこだわり、930FPでは最高品質のハンガリー産シルバーグースダウンと産地も公表していて個体差が起こりにくい安定水準なことがうかがえます。
構造
寝袋の構造は非常に種類が多くメーカー差が大きいです。
ダウンはそのまま封入すると偏りが発生してしまうため、仕切り(バッフル)を作り個室に閉じ込めます。そのブロックパターンで斜めに仕切ったモンベルや上半身バッフルを縦に仕切った構造も多く使われます。
裁縫ではシングルキルト、ボックスキルト、台形ボックスキルトでも熱損失に大きく差が生まれるため、寝袋の重要な要素です。
首元を守る温め寝袋内の熱の閉じ込めるショルダーウォーマー、ジッパーからの冷気の侵入を防ぐドラフトチューブ、熱損失を減らした短いジッパー、立体的で綿量を増やした足元など軽量性重視か快適性重視か保温性重視かも変わってくるため使う時期、用途と合わせて考える必要があるのが構造です。
体に合わせることが重要で、メジャーなモデルでは身長に合わせたショートロングモデルや女性用も展開しています。
EN13537に表れない寝やすさ、使いやすさも構造による部分が大きいです。
生地
生地は厚い(高いD:デニール)ほど寝袋内の熱が逃げにくくなります。
ただ分厚ければいいわけでもなく、外からの湿気を防ぐための撥水性や防水性を持った生地であったり、ダウンの吸った湿気を外に排出する通気性も重要になってきます。
ポリエステルとナイロン、防水生地でも特性は異なります。
別途シュラフカバーを使う前提で寝袋は薄い生地にしていることもあり、シチュエーション次第で良い悪いは変わってきます。
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スリーピングバッグマットの重要性
寒い時期ほど寝袋とセットで考えたいのがスリーピングバッグです。
R値で断熱力を表され、寒い時期ほど高いR値のマットが求められます。
地面からの冷気を遮るのはもちろん、寝心地、体温を反射する機能も求められる道具です。
個人差の大きさ
寝袋の性能がわかっても使う自分のことを知る必要もあります。
寝た時の寒さの感じ方は個人差が非常に大きいのです。
老若男女差
EN13537で男女が分かれた表記になっていることからもわかるように、一般的に男性のほうが寒さに強く、女性のほうが寒さに弱い傾向にあります。
筋肉が多く発熱量が多いからと言われますが、それでも寒さに強い女性もいれば、寒さに弱い男性もいます。
また高齢になるほど寒さに弱くなるようです。
長く登山やキャンプをされている方で、若いときは寝袋で寒さを感じることが少なかったけど、年を取ってから寒くてしょうがないという人も多いです。
寒さ耐性
寒さに強い人、弱い人がいます。全身ですが、末端が冷えやすい人も多いでしょう。
冷えるの度合いで差は意外に大きく、同じ環境で寝ても寝袋で1グレード変わる場合もあるほどです。レビューや温度表記を鵜呑みにするのではなく、自分の寒さ耐性を考慮して選ぶ必要があります。
服装
意外に重要なのが寝るときの服装。
良い悪いは人によって変わってきますが体を締め付けないサイズ感と伸縮性、寝苦しくない、吸湿性が高い、寝袋に体温を移すのを邪魔しない辺りが重要なポイントになってきます。
一般的には防水シェルなどは適していないと言われるのは寝袋に体温を移しにくくいことからです。
また足は寝ている間も汗をかきます。靴下では濡れてそのまま足を冷やす原因になりやすいため、テントシューズやゆったりとした靴下が理想です。
安心したいなら
寝袋の性能、個人の耐寒温度の差と寝袋選びは簡単に答えが見つけられません。
そして寒くて寝れなかったというのは大きなストレスに繋がってしまいます。
冬用の寝袋など特に厳しい状況を想定する場合に、寒さに対して不安があるなら少しでも高いグレードを購入することを強くオススメします。
まとめ
EN13537は幅広く使われていて参考にしやすいですが、万能な規格ではありません。
〇度だから冬キャンプでも大丈夫!ではなく中綿の質、性能や構造、使い方、自分の寒さに対する強さまで考えることが重要です。
疑問を持つことを忘れずに、なぜ、どうしてかを考えて道具を選ぶ気持ちを忘れないようにしたいです。
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